保育所の運動場で、全員の前である先生が、メッシュ素材のチャック付きポーチからあるものを取り出した。
テニスボールくらいの、ピカピカの泥団子だった。
いまだにその光景を覚えているくらい、そのときの私には衝撃的だった。
本当にそんなものが作れるのか、みたいな気持ちだった。先生は、どうやって作ったのか説明していたっぽい。どうやらジャージのズボンの布切れを使って磨いたらしい。
説明のあと、「はくちょう組」や「つばめ組」の欲しい子には、そのジャージ素材の布切れが配られたみたいだった。私も先生に欲しいと言ったけど、そのとき私は「カナリア組」か「あひる組」で、もらえることはなかった。なんだか特別なものなんだと感じた。
たぶんそれから半年以上は経って、泥団子で騒いでいる様子は見かけなくなった。ジャージ素材の布切れも、ピカピカの泥団子も、あれ以来見ていないと思う。
だけど私の頭の中にはしっかり残っていて、いつしか「あのジャージの布でピカピカの泥団子を作りたい」と心のどこかにしまっていた。
ある日、運動場の裏のゴミ箱に、誰かがジャージ素材の布を捨てたのを見た。
今ここでそれを拾えば、ピカピカの泥団子を作れるかもしれない。
でも、自分には配られていないものを勝手に取っていいのだろうか、とも思った。
迷った末に、こっそりゴミ箱からそれを取り出し、大事に隠し持っていた。
そこから先は少し記憶が飛んでいるのだけれど、気づいたら私は、ピンポン玉より一回り大きいくらいで、表面の500円玉くらいの範囲だけがピカピカになっている、石混じりの泥団子を作っていた。
嬉しくて、ある友達に「秘密だよ」という感じで見せると、そのあとたくさんの同級生に囲まれて、
「どうやって作ったの?!」「すごい!!」
と騒がれた。私は正直に「ゴミ箱から〜」と説明するんだけど、ゴミ箱の話をされてもみんなピンと来ていなくて、「何言ってんだ?」みたいな空気だった。「これからどうするの?」と聞いてくる子もいた。
私の中には、あの“特別な布”を勝手に使ってしまった罪悪感があって、先生はたぶん褒めてくれたはずなのに、どこか責められているようにも感じた。
みんなが私の泥団子を気にするので、だんだん私は「石も混じってるしなぁ」と思えてきて、作った泥団子が嫌になってきてしまった。
最後、私は大切に作ったそれを、運動場で投げて粉々にしてしまう。
それ以来、友達と泥団子を作り出しても、ピカピカになる前に壊していた。